インタビュー:クリス・マチェズニー×ブライアン・マーティーニ×竹村富士徳
戦略実行の原則とは何か。
「組織に不足しているのは、戦略構築力ではなく実行力だ」という、パラダイムシフトの誕生から15年の年月を経て、「4DX(実行のための4つの規律)」は、組織が戦略を実行する際のひとつの「OS」として、世界中で多くの企業、組織に導入され、成果を出してきました。
「4DX(実行のための4つの規律)」のプラクティス・リーダーとして世界を飛び回る、米国フランクリン・コヴィー社のクリス・マチェズニーとフランクリン・コヴィー・ジャパンのブライアン・マーティーニ、竹村富士徳が、日本における「4DX」の可能性について語り合いました。
クリス・マチェズニー プロフィール
フランクリン・コヴィー社の「戦略実行」グローバル・プラクティス・リーダー。「4Dx 実行のための4つの規律」の開発者の一人。
約10年前からフランクリン・コヴィー社で4Dxの開発を主導し、世界各地で4Dxのコンサルティングに携わり、何百もの組織に大きなインパクトを与え、目覚ましい成長をもたらした。
米国ウォール・ストリート・ジャーナルNo.1ベストセラーとなった、『戦略を、実行できる組織、できない組織』(キングベアー出版)の著者。
1.「4DX」の誕生と成長
「4DX」は何がきっかけで生まれたのか。また、ほかの研修プログラムとの違い、「4DX」の独自性とは何か。
2.「7つの習慣」と「4DX」
「7つの習慣」は「4DX」にどのような影響を与えてきたのか、また、両者の共通項とは何か。
3.「4DX」15年間の変化と進化
「4DX」はこの15年間でどのような進化を遂げてきたのか。
4.日本での「4DX」の可能性
「日本こそ『4DX』がフィットする」と語るクリス・マチェズニー。日本人が持つポテンシャルと可能性について。
1.「4DX」(実行のための4つの規律)の誕生と成長
ブライアン・マーティーニ
まずは、「4DX(実行のための4つの規律)」がどのような経緯で誕生したのかについて聞かせていただけますか。
クリス・マチェズニー
始まりは、CEOと『経営は「実行」』の著者であるラム・チャランからの問いかけでした。ある日の終わりにフランクリン・コヴィーの経営陣に対してひとつの質問をしました。
「皆さんの経験上、リーダーが力を入れているのは何だと思いますか?実行ですか、それとも戦略ですか?」「実行だと思う」と私たちは答えました。
2つ目の質問は、「リーダーは何を教育されていますか?戦略ですか、実行ですか?」でした。私は、リーダーが受けているのは、戦略に関する教育だと思いました。
さらに彼はこう質問しました。「リーダーの実行に本当に役立つものは何ですか? どんなに統制のとれた組織、有能な人材あふれる組織であっても、ときに、何年も戦略の実行に悪戦苦闘しているのはなぜですか?」
私たちは「わかりません。秘訣は何ですか」と答えましたが、ラム・チャランは「私にもわからない。だから、あなたたちにやってほしい」と彼は言いました。
15年以上も前の出来事です。以来、私たちは「実行」について研究・開発を続けてきました。
そして私たちは、いくつものプラクティスを活用して、根本となる原則を探り、組織で戦略を実行する4つの基本原則を突き止めました。
竹村
実行力に関する需要が高まり、フランクリン・コヴィーの「実行のための4つの規律」は誕生から15年、飛躍的に成長していますが、同様に、様々なコンサルティング会社、組織が、実行に関するプログラムやバランス・スコアカードなどのKPIを設定するソリューションなどを提供しています。その中で「4DX」がこれまで大きく成長してきた理由は何だと思いますか。
クリス
答えを聞いて驚くと思いますが、すべてに「4DX」を使用していないことが、その理由のひとつだと思います。「4DX」は万能ではないからです。何に良くて、何に良くないか、私たちは早い段階で明らかにしました。企業が行うすべてを「4DX」に取り込むことはしません。「4DX」は、非常に集中的な対処法です。だからこそ、実際に役立つのです。
手法をシンプルに維持し、一連のKPI、一連の維持可能な要素にフォーカスを絞り、明確にすることが重要です。人の行動を大きく変える必要がないことに「4DX」を適用する必要はありません。戦略策定、買収、資本投資、ベンダーやメディアの選定などに「4DX」は必要ありません。
しかし、人の行動を大きく変える必要がある、焦点を絞った戦略には、フォーカスする必要があります。クライアントが「4DX」をどこで使用すべきかを知ることが、このプログラムの成長の鍵になっています。
ブライアン
竹村さんが、日本で「4DX」を展開されたとき、どのような感想を持たれましたか?
竹村
まず、私がこれまで学んできたことは、このプログラムは完全にソリューションでありプロセスであるということです。お客様は、このプロジェクトを通じて、本当に「実行できる組織」に変わることを求めています。「7つの習慣」も変革プログラムのひとつですが、「4DX」の方が、はるかに力があります。
また、他のプログラムとまったく異なり、研修をやって終わりではありません。クライアントとともに成果を出すことにコミットし、システムとして組織の中にインストールされるまで長期的に取組みますから、そのクライアントに対するエンゲージメントが非常に高くなります。本当にクライアントの組織の一員になる感覚です。
クリス
私も同じです。「4DXプロセス」は、コンサルタントをクライアントの組織に引き込みます。一体感ですね。本当に引き込まれます。
2.「7つの習慣」と「4DX」
ブライアン
日本で「7つの習慣」は高い支持を得ています。多くの企業が7つの習慣を学び、7つの習慣を実践しようと試みています。7つの習慣には、文化を変え、結果に影響を及ぼす力があります。さらなるプログラムが必要なのはなぜでしょうか。「4DX」は「7つの習慣」とどのようにかかわるのでしょうか。
クリス
「7つの習慣」は、人間の効果性、個人、人間関係の効果性の基本原則です。組織の実行の原則ではありません。たとえ、効果性の高い人たちで構成される組織でも、戦略の実行に悪戦苦闘することがあります。卓越性を求める気持ちの強い文化、組織では特に、活動を維持するためには多大な労力が必要だからです。日常の優先事項を維持するためには、多大なエネルギーが必要です。
大きな卓越した目標やビジョンであればあるほど、達成のためのエネルギーはさらに大きく、力強いものが必要となり、結果として、新しいことを実行するのはほぼ不可能になります。このジレンマを打破するには、異なる原則が必要です。
「4DX」は、組織レベルでの第2の習慣、第3の習慣に非常によく似ていると言えるでしょう。終わりを思い描くことであり、最優先事項を優先する組織的な仕組みです。しかし、組織的な原則の適用は、個人とは異なります。
ブライアン
スティーブン・コヴィー博士のメッセージは、「4DX」にどのような影響を及ぼしましたか。
クリス
「コヴィー博士は人々に原則とは何かを教え、人間の効果性の根本原理を伝えました。彼には、これらを全体論的にまとめるすばらしい能力がありました。
実行というテーマに取り組んだ私たちは、もちろんコヴィー博士に大きな影響を受けましたし、「7つの習慣」はすでに私たちのDNAになっていました。ですから、実行に取り組んだ私たちが、原則と向かいあったのは当然のことでした。
たとえば、飛行機が飛ぶためには原則に基づいていなければなりません。揚力、推力、重量、抗力の4つの原則です。この4つの原則を適用することができれば、飛行機を飛ばすことができます。不可能を可能にすることができます。実現するのは、私たちではなく、原則だからです。これが、コヴィー博士の教えです。
一方、リーダーが困難な目標にチャレンジするとき、戦略を実行するとき、高いエンゲージメントが必要です。そこにも4つの原則があります。揚力、推力、重量、抗力ではありません。「フォーカス」「レバレッジ」「エンゲージメント」「アカウンタビリティ」です。コヴィー博士がいなかったら、この考えに行き着くことはなかったと思います。
ブライアン
「7つの習慣」「4DX」には新しい原則やスキームがあるわけではないと言う人もいますが、原則の重要さ、原則に基づいたときの効果性の高さには誰もが気づいています。
そのうえで、「4DX」の持つ独自性はどこにあるのでしょうか。
クリス
コヴィー博士は多くの人から影響を受け、そのことを率直に語っていました。常に身近にある原則を知る方法のひとつだからです。しかし、「4DX」のフォーカス、レバレッジ、エンゲージメント、アカウンタビリティという原則を理解しただけでは、戦略の実行には役立ちません。本当の知恵は、原則の適用の中にあります。
真の才能は、原則を適用することです。1500以上の導入によって、私たちは、フォーカス、レバレッジ、エンゲージメント、アカウンタビリティという原則を適用し実現するにはどうすればいいのかを学びました。
竹村
本当にそうですね。「4DX」はまさしく原則によって構成されていると思います。お客様もそのように理解しています。戦略実行のプロセスなので、一見、原則や人材育成とは異なるように見えますが、「7つの習慣」同様に、根底にあるのは原則であり、だからこそお客様にも評価いただいているのだと思います。
3.「4DX」 15年間の変化と進化
竹村
クリスはこのプロジェクトに15年携わっていますが、どのような変化がありましたか?15年前と現在とでは、市場の変化、実行に関する要件の変化はどのようなことでしたか?
クリス
すばらしい質問です。私たちが始めた当初、実行の問題を認識している人はいましたが、当時の課題はまだ戦略が中心でした。この15年で、実行は多くの面で戦略よりもずっと大きな問題、課題になっています。実行に関する情報は少ないにもかかわらず、実行の問題は15年前よりも大きく広がっています。私たちが組織の実行支援に乗り出したのは、運が良かったと思います。
竹村
理由は何でしょうか。どのように考えられていますか。
クリス
完璧な答えはありませんが、観察して学んだことならいくつかあります。
ひとつは、ラム・チャランの存在でしょう。彼が実行の重要性を投げかけました。実行が問題だということに、人々が気づき始めました。
ふたつめは、ビジネス社会の加速度的な変化でしょう。多くの人たちは、戦略を策定することに長けています。みなさんすばらしい戦略があります。ですから思いついたことの半分でも実行できれば、すばらしいと言えるでしょう。
しかし、アイデアを実行し、成果を得ることは別の問題です。時間もかかりますから、いざ実行しようしたときには、すでに戦略が古くなっている可能性があります。また、戦略を実行するためには、日々大きなエネルギーを維持する必要があります。しかもビジネスのペースはどんどん加速していきます。さらに、携帯電話、メールなど、集中を乱すものは至る所に存在します。10年前と同じ方法で逃れることは不可能です。日常のプレッシャーを振り払うことはできません。移動中や自宅など、あなたがどこにいようと、つきまといます。もちろん、以前からこのような問題はありましたが、今日ほどではありませんでした。
ブライアン
まさに、それはクリスの言う「竜巻」だと思いますが、竜巻についてもう少し詳しく説明していただけますか。
クリス
ビジネスを維持するために、今、起きていることすべてです。たとえば、今読んでいるあなたは、「実行」について興味をお持ちだと思いますが、しかし、今すぐやらなければならないと感じていること、常に頭から離れないことがあるはずです。実際、あまりに当たり前のことになっていて、見えません。水の中にいる魚には水は見えないとは、よく言ったものです。そして、この竜巻は至る所で発生しています。
竹村
コヴィー博士がよく語っていた「激流」の話を思い出しました。現在のビジネス社会は、静かな川の流れではなく、激流のような川の流れだということですね。
クリス
現在、あらゆる組織、あらゆる業界で大きな変化が起きており、しかも変化の速度も加速しています。誰もが、その変化が自分たちの業界、自分たちの組織に特有のことだと考えています。しかし、これは決して特有のことではありません。普遍的なものだと思います。
開始から15年、こうした変化を肌で感じながら、毎年100以上の企業・組織に「4DX」を導入してきました。その変化を受け少しずつ改良を重ねてきました。「実行のための4つの規律」は年々進化しており、始めた当時と同じものではありません。変異するからこそプロセスを改善し、生き残ることができます。そうして、今の私たちがあります。私たちが特別賢明だったからではありません。ずっと継続したからです。
ブライアン
具体的には、どのような変化のプロセスを歩まれてきたのですか?
クリス
最初の6年間は原則にフォーカスしていました。先行指標とは何か、どのようにして戦略を目標に落とし込むかについて研究してきました。原則の存在に気づき始めた最初の6年間を過ぎると、原則は固定化されていきました。
原則は固定しましたが、「4DX」の実施のプロセスは、常に変化し続けています。どうすれば苦痛を生み出すことなく「4DX」を文化として確立することができるか、文化の中で「4DX」を維持するにはどうすればよいか、リーダーの役割は何か、リーダーの先行指標は何か。4つの規律をいかに確立するかという目標は、常に動く目標であり、最も大きな目標です。
大きな変化があったのは、「4DX」は、フランクリン・コヴィーが提供する、モラル、エンゲージメントに対して最も有効なものであることが分かったときでしょうか。モラル、エンゲージメントを推進する一番の要素は、人が勝利を実感しているかどうかだと思います。私たちは「4DX」を正しく実践すれば、驚くほどのエンゲージメントが生まれることに気づきました。「4DX」は勝ち試合を生み出す公式だったのです。それは副産物的に生まれましたが、大きな飛躍のきっかけでした。
4.日本での「4DX」の可能性
ブライアン
「4DX」は日本のビジネスにどのように適合すると思いますか。
クリス
おそらく、日本の組織は世界のどこよりも統制がとれており、「4DX」が理解されれば、可能性は極めて大きいと思います。日本は、世界中のどこよりも「4DX」が効果を発揮することでしょう。個人、文化の規律は驚くべきほどで、世界中のどこよりも高いからです。4つの規律は、実行に関する4つの優れたアイデアではありません。知るだけでは意味がないのです。「4DX」は、規律ある組織に非常に有効です。
クリス
竹村さんに質問があるのですが、日本固有の文化で私の印象に残ったことが2つあります。卓越性と深い敬意です。もっと良い言葉があるかもしれませんし、他の人なら別の言葉で表現できるかもしれませんが、外国人として、この2つのことが印象に残りました。卓越性への熱意は強く驚くほどです。この2日間で20の事例を目にしました。このようなことを目にしたのは、日本が初めてです。世界中で実践しようと思います。同じように強いのが、深い敬意です。ビジネスだけでなく、観光客に対しても見られます。このような環境で規律を確立すれば、このような文化では、規律は大きな効果を発揮すると思います。
竹村
日本人は、他の国よりも、他人に敬意を払います。ただし他者への敬意が強すぎると、自立が失われ、他人に依存するようになることもありますが、クリスが気づいているように、日本人は統制がとれています。それが良い方向に働くこともあれば、悪い方向に働くこともあります。かつて、上司の命令は絶対でした。それも有効かもしれませんが、今は激流の時代です。もっと自立した関係が必要です。日本人は、他人や規律を重んじていますが、それが時にマイナスに働きます。しかし、日本人は、自分たちが何をすべきかを理解すれば、正しくそれを実行することができると思います。
クリス
浸透には時間がかかりますが、ひとたび確立されれば、日本は他のどこよりもうまくいくと思います。
ブライアン
日本は高い水準の顧客サービス、品質で知られています。これは、細部にまでフォーカスすることによるところが大きいと思います。日本人は非常に細かいところまで気を配る文化です。「4DX」の観点から言えば、フォーカスするときは、ときに範囲を絞ることも必要です。日本のオフィスでは、従業員があらゆる細部にフォーカスしています。つまり、やらなければならないことが非常にたくさんあるということです。何が重要で、何が重要でないか質問すると、全部重要だと言います。
クリス
多くの場合、やるべきこと、やらなくてもよいことの間にあるのは選択ではありません。持続しなければならないこと、最適化すべきことの区別です。これは、私たちにとって非常に重要です。業務の80%はただ維持すればよいのです。このことを無視すると、うまくいかなくなります。どんな企業でも疲弊します。
私たちのエネルギーの80%は維持に使われます。残りの20%で何を最適化するか、何に対処するか明確にしなければなりません。「4DX」は対処法です。80%を捨てるということではありません。焦点は80%を捨てることではなく、何に規律を適用するかということです。これは、チームにとって重要な分岐点であり、維持すべき他のことと明確に区別できるようになります。何に先行指標を適用するか、毎週、何に取り組むかということです。これにより、もっと良い場所に着地できます。得られる要素は他にもあります。これは精神的な枠組みではありません。このように、維持すべきことと最適化すべきことを区別できなければ、組織は優先順位をつけるのに苦労します。
竹村
それが「4DX」の要点だと思います。通常、人が目的、目標を実行できないのは、すべてを行うことはできません。やらなければならないことをできないからです。そこで、一般的には、計画を立てますが、いざ計画を立て、何かを行おうとすれば、やらなければならないと思えることがたくさん出てきます。誰が行うのか、期間は1カ月か、3カ月か、それとも6カ月か。このような長期の計画を立てても、普通はうまくいきません。「4DX」はこれよりもずっと現実的なアプローチです。竜巻の中でも、目標にフォーカスし、進むことができます。
クリス
組織が何か行おうとするとき、組織的なアプローチをしようとするときは、長期的な計画が必要です。しかし、人の行動を必要とする実行に関しては、長期的な計画を立てることはできません。長期的な計画は役に立ちません。「4DX」がもたらすことのひとつは、冗談めいて言えば、ジャストインタイムの戦略的プランニングです。まるで…
ブライアン
日本人が行うような…。
クリス
その通りです。ジャストインタイムの在庫管理ではなく、ジャストインタイムの戦略的プランニングです。日本がもっとも得意とすることです。状況は常に変化します。行動は変えなければなりません。最も重要な戦略を左右する、影響を及ぼす指標に影響を及ぼすために1週間できることを組織の人々に自問させるのです。戦略的な計画では得られない、強力な戦略的優位です。これが「4DX」の最大のポイントです。
竹村
日本の組織、企業、非営利団体のリーダーへのアドバイスを一言お願いします。実行に関してどんなアドバイスがありますか。
クリス
組織に対する目標が高すぎると、実行力は一瞬で消滅します。実行力を消滅させるプロセスは複雑ではありません。一言アドバイスすると、良いアイデアというものは、いつでも実行力を上回っているものです。何もかもしようとせずに、ひとつの原則にじっくりと取り組むことで、もっとずっと先へと進むことができるのです。
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